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SHIN OKADA | 岡田晋公式ブログ

プロスケーター、PUSH CONNECTIONプロデューサー岡田晋の公式ブログです。

世界への扉<メガネとオタクとスケートボード〜最終章〜>

<世界への扉>

 

「晋!凄いぞお前!!快挙だ!快挙!!すぐにカリスト来いよ!!」

 

今まで聞いた事もない程に興奮した声のオダッチから連絡が来たのは、Primeにフッテ

ージを送ってからちょうど2ヶ月後のある日の午後の出来事だった。

 

クリスのフックアップによりPrimeにビデオを送ってから1ヶ月が過ぎた辺りから、あ

の騒動の予兆はなんの前触れも無く突然現れ始めた。

 

(ピンポーン♪)

 

「岡田晋さんに海外からのお届け物です。」

 

その日、何時も通り高校から帰宅し、等々力にスケートしに出かけようと自宅で準備し

ていると、僕宛に海外からの荷物が届いた。

 

それまで海外からの荷物など受け取った事のない僕は、それがクリスからの物だと直感

的に察した。

 

慌てて玄関を開けると、宅配のお兄さんが抱えていたのは、代理店やスケートショップ

の倉庫でしか見た事のないスケートデッキを発送する為の独特なサイズの細長い段ボー

ルで、その段ボールにはWorld Industriesのロゴが大きくプリントされていた。

 

「う!うわ〜〜!!」

 

興奮を抑えきれずその場ですぐにその段ボールを開けると、中からはスケートショップ

に漂う新品のデッキ特有のニスの匂いと共に、何とも言えない異国の風が僕の自宅の玄

関に溢れた。

 

段ボールにぎっしりと入れられたデッキやウィール、Tシャツ等を夢中でかき出す様に

取り出していると、荷物の中から1通の手紙がこぼれ落ちた。慌ててその手紙を拾い上

げ開いて見るとそこには、

 

「フッテージ見たぞ!!Good Job!!!クリス。」

 

と手書きで書かれたクリスからの短いメッセージが添えられていた。

 

僕は段ボールに入っていたギアをその場に並べ、クリスからの手紙を手にニスの臭いが

充満した玄関でしばらく興奮と感動と共に、遠く離れたアメリカに居るクリスやPrime

の仲間達に思いを馳せた。

 

(僕は忘れられていない。)

 

クリスからのメッセージとギアの入った荷物は、僕にアメリカのチームにしっかりと所

属している実感と共に大きな安心感を与えてくれた。

 

僕は今でもプレスしたてのデッキの匂いを嗅ぐ度に、この日の出来事を鮮明に思い出

す。

 

オダッチからの連絡が入ったのは、そんなすばらしい出来事の1ヶ月後の事だった。

 

何が起きたのか分からないまま、僕はすぐに家を飛び出しカリストへと急いだ。オダッ

チがあそこまで興奮する快挙とは一体なんなんだろう?カリストへ向うの僕の心にはそ

んな疑問と不安にも似たわくわくが渦巻いていた。

 

「オッ、オダッチ!!」

 

あまりにもオダッチの興奮が気になり、代官山から競歩のようなスピードで向った僕が

息を切らしながらカリストに飛び込むと、落ち着かない様子で僕を待っていたオダッチ

も、レジの向こう側から1本のビデオテープを手に転げるようにこちら側に飛び出して

来た。

 

「おい!!晋!!コレ見てみろ!!」

 

何時もは冷静なオダッチが、我を忘れる程興奮している姿に驚きを隠せないまま、押し

切られるように渡されたビデオテープを見ると、そこには炎のグラフィックにPrime

「Fight fire with fire」と言うタイトルがプリントされていた。

 

「うあ!!!Primeのビデオじゃん!!遂に出たんだ!!」

 

当時、新作のスケートビデオが日本に入ってくるまでには3ヶ月近いタイムラグがあっ

たにも関わらず、カリストの社長はアメリカのスケートショップと提携し、1ヶ月にも

満たないタイムラグで新作のビデオやデッキを仕入れていた。おそらく、このPrimeの

ビデオを日本人で1番最初に目撃したスケーターはこのカリストで働くオダッチだった

だろう。

 

しかし、彼の興奮はそんな最新のビデオを誰よりも早く手にしたというレベルのもので

はなかった。

 

純粋にPrimeのビデオが出た事に驚く僕に業を煮やしたオダッチは、僕の手にあるその

ビデオを勢い良くひっくり返した。

 

「違う!!違う!!快挙なのはこっち!!裏を良く見てみろ!!」

 

言われるがままビデオテープの裏側を見ると、そこには出演ライダーの名前がずらっと

表記されていた。上からKris Markovich、Mike Santarossa、Mike Crum、さらに日本に

来日しなかったプロスケーターの名前が4人、そしてその次の名前へと目を移した時だ

った。

 

「あ〜〜〜〜!!!!」

 

僕はあまりの衝撃に口から内蔵が飛び出しそうになった。その姿を見たオダッチもやっ

と理解したかと言う表情で、

 

「な?快挙だろ?マジでスゲーぞ晋!!」

 

と、僕の両肩を掴み前後に揺さぶった。カクカクさせられながらも、僕はビデオテープ

にプリントされた1人のスケーターの名前を何度も見直した。

 

「Shin Okada」

 

そう、そこにはしっかりと僕の名前が表記されていたのだ。

 

スケートビデオの出演ライダーの表記は、通常上から下に向けてチーム内での評価と順

位をそのまま表現していて、プロに続いてアマチュアと言うのが通例だった。僕はアメ

リカ人そして世界のスケーターにとっても無名で、アメリカに住んでも無い訳で、表記

は1番下でもおかしくないにも関わらず、なんとその順番はプロのすぐ下、アマチュア

の一番上に名を連ねていたのだった。

 

「オダッチ!!もうコレ観た??」

 

すぐにそれに気付いた僕が次に気になったのは、ビデオの中での僕の扱いと内容だっ

た。

 

「おう!!気が付いたな!!名前の位置もスゲーだろ?中身もマジでヤバいぞ!!晋の

扱いはまったく他のプロと同等で、パートもフルで入ってるしオープニングにも出て来

るんだ!!!お前本当にスゲー事しでかしたな!!!」

 

オダッチも、やっと僕が彼の興奮に追い付いて来た事に満足そうな表情を浮かべ、

 

「それからこんなのもあるんだぜ!!お前ぶっ倒れんぞ!!」

 

と言い、レジ裏に戻ると1冊の雑誌を手に戻って来た。

 

「コレだ!!」

 

それは当時、ThrasherやTransworld Skateboardingと共に人気を博していたサンフラン

シスコ発のスケートマガジン「SLAP」だった。

 

次々に展開する驚くべき出来事にやられっぱなしの僕に、追い打ちをかけるかのごと

く、オダッチはそのSLAPのふせんの付いたページを開き、僕の目の前に出した。

 

「じゃ〜〜〜ん!!!」

 

それはPrime立ち上げとビデオリリースを知らせる広告で、上半分にはPrimeのロゴとビ

デオリリースのインフォメーション、下半分にはスケートトリックの連続写真が掲載さ

れていた。その連続写真のトリックを目で追おうとした次の瞬間、さらなる衝撃が僕の

全身を襲った。

 

「コ!!コレ!!俺じゃん!!!」

 

そう、その広告に使われていたのは、クリスが帰国する際に持ち帰った

NEWTYPE「LITTLE PHAT」の中の1トリックで、Prime加入の決定打となった、世界

でまだ誰もメイクした事の無いトリック、ノーリーハーフキャブヒールからのスイッチ

バックサイドノーズグラインドだった。

 

「晋!!世界デビューだな!!」

 

あまりの衝撃にふらふらになった僕にオダッチは誇らしげにそう言った。

 

当時、スケートシーンを席巻していたWorld Industriesの傘下に誕生したブランド

「Prime」、そんな世界が注目する新たな流れの中に突如現れた日本人スケーター、そ

してまだアマチュアにも関わらずPrime1発目の広告でのニュートリックの披露に、ビ

デオパートの獲得。それらはオダッチの言う通り快挙以外の何ものでも無かった。

 

その頃、アメリカのカンパニーにアメリカ以外の国に住むスケーターが所属し、

彼らと同等の扱いでビデオに収録されたり、広告に起用される事など、世界的に見ても

まずあり得ない出来事だった。しかも、そのスケーターは眼鏡こそ掛けていないもの

の、ちんちくりんの東洋人な上にパートに出て来るスポットも全て日本なのだ。

 

それは、日本人として初めての快挙であると同時に、アメリカ以外に住む全てのスケー

ターにとってもセンセーショナルな出来事となった。

 

アメリカはおろか海外に1度も出た事の無い僕が、その世界の驚きを肌で感じるのはま

だこれから先の事だが、間違いなく僕はこのPrimeのビデオを通し世界デビューを果た

したのだった。

 

そんなとんでもない事態の中心に突然置かれた僕の中にあったのは、周りの興奮とは別

にギリギリで眼鏡面を世界にさらさないで済んだと言う、ささやかな安堵感だった。

 

とにかく、眼鏡面を卒業した「Shin Okada」のフッテージはPrime立ち上げとビデオリ

リースのニュースと共に、瞬く間に世界中へと拡散されて行った。

 

そして、日本人として初めて世界デビューを果たしたと言うこのセンセーショナルな出

来事は、無論、僕の住む国内スケートシーンにもあっと言う間に広がり、NEWTYPEに

加入した時のそれとは比べ物にならない程の反響と共に、眼鏡問題に安堵する僕とはま

ったく別次元で一気に僕の知名度を押し上げて行った。

 

この出来事を通し、僕はNEWTYPEに所属するスケートが上手い眼鏡野郎から、突然、

日本人初の世界に羽ばたく日本代表のスケートボーダーとして、意図せず国内スケート

シーンの最先端に躍り出てしまった。

 

しばらくの間、お世話になった人やスケーターの仲間からの連絡がひっきりなしにかか

って来た。そして今までなんとなく僕を小馬鹿にしていた年上のスケーターまでもが、

そんな態度を急激に軟化させていくのが分かりやすい程はっきりと感じられた。

 

僕は純粋に世界に認められたと言う喜びと同時に、NEWTYPE加入の時に感じたよりも

遥かに大きな周りの変化に、なんとも言えない戸惑いを感じ始めていた。

 

NEWTYPEに加入し、見る側から見られる側に立ち位置が変わり、シーンの中心に近い

所まで来たとは言え、それでもあの日まではまだ、国内で上を目指す余地が僕には残さ

れていた。

 

しかし、Prime加入によるビデオリリースは、そんな国内シーンの進化を一気に更新

し、前人未到の領域にまで踏み込んでいた。シーンの最先端に躍り出る事と引き換え

に、僕は目に見えない重圧とプレッシャーを一人背負う事になってしまった。

 

周りからの評価が上がれば上がる程、アメリカと日本のシーンの狭間で宙ぶらりんにな

った僕の心には言い知れぬ不安が深く広がっていた。

 

「岡田晋さんに海外からのお届け物です!」

 

そんな、日本のスケートシーンの賑わいから来るとてつもない不安にもみくちゃにされ

ている最中、Primeからの2回目の荷物は僕の元に届けられた。

 

Primeのビデオがリリースされて以降、僕は毎日の様にポストを覗き、Primeからの荷物

が届いてないかと確認する日々を送っていた。

 

それは、新しいデッキを心待ちにするわくわくした思いと言うよりも、Primeとの繋が

りを一刻も早く確認したいと言う焦りにも似た気持ちだった。

 

インターフォンの向こうから聞こえた待ちに待ったその一言に、僕はサンダルも履かず

に勢いよく玄関の扉を開けた。

 

「!!!!!」

 

僕は担がれたWorld Industriesからの荷物を見た瞬間、一目で明らかに前回の荷物とは違

う点を発見し、驚きと共に思わず言葉を失った。

 

とにかく冷静を装い荷物を受け取り、1度大きく深呼吸してから届いた荷物をもう一度

しっかりと見つめた。

 

「Good Job!!晋!!」

 

「Welcome to Prime!!」

 

「早く一緒に滑ろうぜ!!!」

 

その段ボールは、World Industriesのロゴが読めない程に、Primeチーム全員からの手書

きの熱いメッセージで埋め尽くされていた。

 

僕は彼らからの心のこもったメッセージに胸を熱くさせ、その1つ1つを丁寧に目で追

った。その中でも一際、僕の心に突き刺さったのが、

 

「晋!!早くアメリカに来い!!みんな待ってるぞ!!」

 

と言う、クリスからのメッセージだった。他にもほとんどのチームメイトが僕がアメリ

カに来る事を望んでいると言った内容のメッセージを段ボール一杯に書き込んでいた。

 

彼らからのメッセージは、日本で閉塞感とプレッシャーに押しつぶされそうになってい

た僕に、世界のフィールドと言う1つの方向性を示していた。

 

(もうアメリカに行くしかないかもな。)

 

塀遊びに興じていた眼鏡でオタクの少年が出会ったスケートボードの世界。それをとこ

とん探検すると言う冒険が、遂に国内のステージを経て、いよいよ世界のステージへと

突入しようとしていた。

 

その日も僕は、自宅の玄関でチームメイトからのメセージに埋め尽くされた段ボールを

見つめ、彼らからのラブコールにより目の前に開かれた新たなステージと、遠く離れた

アメリカに居るPrimeの仲間達にしばらく想いを馳せた。目の前の玄関を開けたらすぐ

にアメリカに居る仲間達に会える様な気がする程に、世界が近く感じられた高2始まっ

たばかりの春の話である。

 

そしてこれが、僕がスケートを始めてから世界デビューをするまでの短いようで長い、

怒濤の様な4年間の物語であり、世界の岡田晋と呼ばれるきっかけとなったエピソード

である。

 

眼鏡でオタクの少年は、スケートを通したくさんの人たちと出会い、コンプレックスに

打ちのめされ挫折しかけそうになる度に、そんなスケートで出会った仲間達に支えら

れ、背中を押され前に進んで来た。

 

僕が何か特別な事をして来たか?と聞かれてもただがむしゃらに憧れのアメリカのプロ

達に追い付こうとスケートをして来ただけで、他のスケーター達と違った点があったと

するならば、それをビデオに記録し続けたという事位だろう。

 

とにかく、全ての人との出会いや後押しが様々な形でタイミング良く重なりあい、この

奇跡的な出来事は起きた。

 

今でも海外に行くと、同世代のスケーター達からPrime加入のエピソードをしつこく聞

かれる事があるが、こんな物語を簡単に説明出来るはずが無く、ただ「ラッキーだった

んだ!」とだけ言いごまかして来たが、その全てをこのコラムに記録し残しておこう。

何時かこのコラムが英訳されたら、その時はあいつにも送ってやろう。

 

ただ、この4年間の物語も僕のスケートキャリアで言えば、たった5分の1にも満たな

い期間の話であり、この後もまだまだたくさんの冒険がこの探検には待ち受けている。

 

そんな僕の探検はこの先、いよいよ日本を飛び出し世界へとそのフィールドを広げて行

く事になるが、その話はまた次の機会に。

 

最後に、この連載に最後まで付き合ってくれた読者のみんなとそれを支えてくれたTWJ

Skateboardingの編集長、井上慎くん、そして応援してくれた仲間達に心から感謝した

い。ぼくはスケートを通して、本当に掛け替えのない仲間達と出会えたと思っている。

みんな本当にありがとう。

 

連載開始から2年、ようやくこの企画にも1区切りつけそうだ。そろそろ仲間が迎えに

来る。今日も新しい刺激を求めて探検に出かけるよ!まだまだスケートと共に行きたい

場所や見たい景色がたくさんあるんだ。読者のみんなとも何時か何処かで逢えるかな?

 

その日までKeep on skating!!

 

スケートボードに最大級の感謝と愛を込めて。

 

Shin Okada

 

続く。

 

 

メガネとオタクとスケートボード〜前書き〜

メガネとオタクとスケートボード〜第1章〜

メガネとオタクとスケートボード〜第2章〜

メガネとオタクとスケートボード〜第3章〜

メガネとオタクとスケートボード〜第4章〜

メガネとオタクとスケートボード〜第5章〜

メガネとオタクとスケートボード〜第6章〜

メガネとオタクとスケートボード〜第7章〜

メガネとオタクとスケートボード〜第8章〜

メガネとオタクとスケートボード〜第9章〜

メガネとオタクとスケートボード〜第10章〜

メガネとオタクとスケートボード〜第11章〜

メガネとオタクとスケートボード〜第13章〜

メガネとオタクとスケートボード〜第14章〜

メガネとオタクとスケートボード〜第15章〜

メガネとオタクとスケートボード〜第16章〜

メガネとオタクとスケートボード〜第17章〜

 メガネとオタクとスケートボード〜第18章〜

 メガネとオタクとスケートボード〜第19章〜

  メガネとオタクとスケートボード〜第20章〜